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9話 孤独な美少女の意外な特技

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-10 16:47:45

「な、なにするのよ……貴方、失礼じゃないの!? 礼儀を知らないの!? 乱暴だし……ちょっと、強引だし……女の子の手を握る……なんて……」

 少女は次々と不満と文句の言葉を口にしたが、その声は高揚と恥ずかしさで少し上ずっており、表情はどこか嬉しそうに見えた。ユウが掴んでいた手を離すと、彼女はすぐさまそっぽを向きながらも、無意識のうちにユウの着ているシャツの裾を、小さな指先でぎゅっと掴んでいた。

(あれ? 思ったより効果覿面してる!?)

 ユウは、自分の作戦が予想以上に早く功を奏したことに、内心で驚きと喜びを感じていた。

「え? あぁ、ごめんな! 遊びに誘っただけなんだけど……イヤだったか?」

 ユウは、素直に謝りながら、少女の顔色を窺うように尋ねた。

「……別に良いわ。何の用なのよ……?」

 淡い金髪の美少女は、依然としてそっぽを向いたまま、冷たい態度を取り繕うように返した。しかし、ユウのシャツを掴む指の力は緩んでいない。

「何の用って、お前と仲良くなりたくて、うるさい場所から離れただけだって」

 ユウは、真っ直ぐな視線で、正直な気持ちを伝えた。

「そ、そう……仕方ないわね。わたし……リーナよ。あなたは?」

 リーナは、ユウの顔を一瞬だけ横目で盗み見ると、口早に自分の名前を告げた。その声は、内心の高揚を隠しきれていないように、微かに上ずっている。

「あ、俺はユウだ。よろしくな! 仲よくしてくれると嬉しいんだけど……」

 ユウが屈託のない笑顔を向けると、リーナは再び顔を背け、自分の金髪を弄びながら、懸命に平静を装った。彼女の耳の先が、ほんのり赤く染まっているのが見て取れた。

「……いいわ。仕方ないわね……仲良くしてあげるわ!」

 リーナは、まるで大きな恩恵を与えてやるかのように、大げさに溜息をついてみせた。その言葉とは裏腹に、彼女の口元は微かに緩んでおり、透き通る青い瞳の奥には、ユウに声を掛けられたことへの純粋な喜びが、きらめきとなって溢れ出していた。彼女は、照れと嬉しさを必死に抑え込もうと、唇をきゅっと引き結んでいる。そのツンと澄ました態度の隙間から滲み出る、隠しきれない満面の喜びが、ユウにとってはたまらなく可愛らしく映った。

「それじゃ、みんなに混ざって遊ぶか? みんな面白くて、良いやつらだぞ」

 ユウがそう提案すると、リーナはピクリと肩を揺らし、すぐに顔を曇らせた。

「……それは……イヤ。わたし……嫌われてるの知ってるし。みんなと仲良くする気はないし……」

 彼女は、寂しさと諦めが混じったような、か細い声で答えた。その言葉には、友達に拒絶されてきた過去が滲んでいた。

(俺は……みんなでワイワイと騒ぐのも楽しいし、二人とか少人数で仲良く遊ぶのも楽しいよな……リーナは人見知りっぽいし、大人数が苦手なんだろうな。それに、嫌われているって自覚してるなら、いきなり輪に入るのは勇気がいるだろう)

 ユウは、リーナの心の壁を察し、無理強いするのをやめた。

「そっか。分かった!」

 ユウは、力強く快諾の言葉を口にした。

「それじゃ二人で遊ぶか?」

 ユウがそう言い切ると、リーナは驚いたように顔を上げ、次の瞬間、まるで一輪の花が咲いたかのように、『にぱぁ』という効果音が聞こえてきそうな、輝くばかりの可愛らしい笑顔をユウに向けた。先ほどまでの不安そうな表情は、跡形もなく消え去っていた。

「……良いわよ。ね、ねぇ、なにする? 冒険者ごっことか!?」

 リーナは、急に楽しそうな、弾むような口調で尋ねてきた。無意識のうちに、座っているユウとの距離を少しだけ詰めており、その動作から、ユウと二人で遊べることへの喜びが溢れ出ていた。

(やっぱり女の子は冒険者ごっこというと、『お姫様』になって、誰かに守られたいんだろうな……この可愛らしいリーナにはピッタリって感じだ)

「分かった。じゃあ……リーナは、お姫様だな!」

 ユウは、満面の笑みでそう告げた。

「……お姫様は……イヤ」

 リーナは、ふいに首を横に振った。

「わたし……剣士ね! それか……魔術師が良いわ!」

 その予想外の返答に、ユウは思わず目を丸くした。

「え? お姫様じゃなくて良いのか? 俺がちゃんと傍にいて守ってやるのに」

 ユウに『守ってやる』と言われた瞬間、リーナはハッとしたように顔を赤く染め、照れくさそうに視線を逸らした。小さな耳の先まで赤みが広がっているのが見て取れる。

「……それは、嬉しいけど……」

 リーナは小声でそう認めると、改めて胸を張った。

「せっかくだし……そう、わたし剣術を習っているし、これでも剣術は得意なのよ」

(……は? え? えぇ!? け、剣術を習ってる!? マジで! す、すげぇ!)

 ユウは、その事実が信じられず、驚きのあまり思考が停止した。女の子が剣術を習っているという発想が、彼の常識には全くなかったのだ。

「は? 剣術を習ってるのか?」

 思わず、そのままの驚きを声に出して聞き返してしまった。

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