LOGIN「な、なにするのよ……貴方、失礼じゃないの!? 礼儀を知らないの!? 乱暴だし……ちょっと、強引だし……女の子の手を握る……なんて……」
少女は次々と不満と文句の言葉を口にしたが、その声は高揚と恥ずかしさで少し上ずっており、表情はどこか嬉しそうに見えた。ユウが掴んでいた手を離すと、彼女はすぐさまそっぽを向きながらも、無意識のうちにユウの着ているシャツの裾を、小さな指先でぎゅっと掴んでいた。
(あれ? 思ったより効果覿面してる!?)
ユウは、自分の作戦が予想以上に早く功を奏したことに、内心で驚きと喜びを感じていた。
「え? あぁ、ごめんな! 遊びに誘っただけなんだけど……イヤだったか?」
ユウは、素直に謝りながら、少女の顔色を窺うように尋ねた。
「……別に良いわ。何の用なのよ……?」
淡い金髪の美少女は、依然としてそっぽを向いたまま、冷たい態度を取り繕うように返した。しかし、ユウのシャツを掴む指の力は緩んでいない。
「何の用って、お前と仲良くなりたくて、うるさい場所から離れただけだって」
ユウは、真っ直ぐな視線で、正直な気持ちを伝えた。
「そ、そう……仕方ないわね。わたし……リーナよ。あなたは?」
リーナは、ユウの顔を一瞬だけ横目で盗み見ると、口早に自分の名前を告げた。その声は、内心の高揚を隠しきれていないように、微かに上ずっている。
「あ、俺はユウだ。よろしくな! 仲よくしてくれると嬉しいんだけど……」
ユウが屈託のない笑顔を向けると、リーナは再び顔を背け、自分の金髪を弄びながら、懸命に平静を装った。彼女の耳の先が、ほんのり赤く染まっているのが見て取れた。
「……いいわ。仕方ないわね……仲良くしてあげるわ!」
リーナは、まるで大きな恩恵を与えてやるかのように、大げさに溜息をついてみせた。その言葉とは裏腹に、彼女の口元は微かに緩んでおり、透き通る青い瞳の奥には、ユウに声を掛けられたことへの純粋な喜びが、きらめきとなって溢れ出していた。彼女は、照れと嬉しさを必死に抑え込もうと、唇をきゅっと引き結んでいる。そのツンと澄ました態度の隙間から滲み出る、隠しきれない満面の喜びが、ユウにとってはたまらなく可愛らしく映った。
「それじゃ、みんなに混ざって遊ぶか? みんな面白くて、良いやつらだぞ」
ユウがそう提案すると、リーナはピクリと肩を揺らし、すぐに顔を曇らせた。
「……それは……イヤ。わたし……嫌われてるの知ってるし。みんなと仲良くする気はないし……」
彼女は、寂しさと諦めが混じったような、か細い声で答えた。その言葉には、友達に拒絶されてきた過去が滲んでいた。
(俺は……みんなでワイワイと騒ぐのも楽しいし、二人とか少人数で仲良く遊ぶのも楽しいよな……リーナは人見知りっぽいし、大人数が苦手なんだろうな。それに、嫌われているって自覚してるなら、いきなり輪に入るのは勇気がいるだろう)
ユウは、リーナの心の壁を察し、無理強いするのをやめた。
「そっか。分かった!」
ユウは、力強く快諾の言葉を口にした。
「それじゃ二人で遊ぶか?」
ユウがそう言い切ると、リーナは驚いたように顔を上げ、次の瞬間、まるで一輪の花が咲いたかのように、『にぱぁ』という効果音が聞こえてきそうな、輝くばかりの可愛らしい笑顔をユウに向けた。先ほどまでの不安そうな表情は、跡形もなく消え去っていた。
「……良いわよ。ね、ねぇ、なにする? 冒険者ごっことか!?」
リーナは、急に楽しそうな、弾むような口調で尋ねてきた。無意識のうちに、座っているユウとの距離を少しだけ詰めており、その動作から、ユウと二人で遊べることへの喜びが溢れ出ていた。
(やっぱり女の子は冒険者ごっこというと、『お姫様』になって、誰かに守られたいんだろうな……この可愛らしいリーナにはピッタリって感じだ)
「分かった。じゃあ……リーナは、お姫様だな!」
ユウは、満面の笑みでそう告げた。
「……お姫様は……イヤ」
リーナは、ふいに首を横に振った。
「わたし……剣士ね! それか……魔術師が良いわ!」
その予想外の返答に、ユウは思わず目を丸くした。
「え? お姫様じゃなくて良いのか? 俺がちゃんと傍にいて守ってやるのに」
ユウに『守ってやる』と言われた瞬間、リーナはハッとしたように顔を赤く染め、照れくさそうに視線を逸らした。小さな耳の先まで赤みが広がっているのが見て取れる。
「……それは、嬉しいけど……」
リーナは小声でそう認めると、改めて胸を張った。
「せっかくだし……そう、わたし剣術を習っているし、これでも剣術は得意なのよ」
(……は? え? えぇ!? け、剣術を習ってる!? マジで! す、すげぇ!)
ユウは、その事実が信じられず、驚きのあまり思考が停止した。女の子が剣術を習っているという発想が、彼の常識には全くなかったのだ。
「は? 剣術を習ってるのか?」
思わず、そのままの驚きを声に出して聞き返してしまった。
「そうだ、カイル! その自慢の弓矢の腕をユウくんに見せてあげれば良いんじゃないっ☆ もっと褒めてくれると思うよっ」 リリは、ユウへの独占欲から一転、ユウとカイの仲を取り持つように促した。 リリの言うことに、まだまだ褒め足りなそうなカイルが反応した。「おぉー! んふふーっ♪ だよな、仲間に俺の技量を見せておかないとなー」 カイルは、嬉しそうに声を上げ、自慢の弓矢の腕前を見せることに乗り気になった。「ただの年下って思われててもイヤだしな」 カイルは、そう言って、ユウに自分の実力を認めさせたいという、若者らしい意欲を覗かせた。「面白そうだ! 俺、村で的あてをやらせてもらったことがあるくらいだし。猟師の人の狩も見たことないし……興味ある」 ユウは、カイルの提案に目を輝かせた。彼にとって、弓矢の技術は未知の領域であり、純粋な興味が湧いた。「おっ、ユウ兄……弓に、興味あるのかぁ……そりゃ嬉しいな。俺の腕前を見て、おどろけー!」 カイルは、ユウの興味を引けたことが心底嬉しそうで、満面の笑みを浮かべた。彼は、小柄で、エルフの血が混ざっているのか耳がツンと尖っており、光に反射して金髪のサラサラの髪の毛を揺らした。そのグリーン色の瞳を輝かせて、ユウに自信たっぷりにそう言った。 ユウは、まだ自分の袖を掴んでいるリリを見て、感謝の気持ちを込めて微笑みながら言った。「リリ、ありがとなー。カイと仲良くなれそうだ」 その言葉に、リリの頬は緩んだ。「わぁっ。えへへ~♪ リーダーとして当然でーすっ☆」 リリは、そう言いながら、さらにユウの腕に抱きつき、得意げな表情を見せた。「それに、ユウくん……警戒心の強いカイに、すんなりと気に入られてたし。すごいねぇ」 リリは、ユウの順応性の高さに感心していた。「カイはエルフの血が混ざってるから結構、警戒心が強いんだよー」 リリは、秘密を教えるように
たとえユウに「仲の良い男友達」などと思われては、リリは気分が良くなかった。仲の良い異性がいるとは思われなくなかった。その勢いのある否定を聞いたカイが、困惑した声をあげた。「な、なんだよー! そこまで否定をしなくてもーだろ! たとえ事実だとしても、ちょっとショックだぞ……俺!」 カイの言葉に、リリはさらに顔を赤くし、ユウの胸に顔を埋めた。「ユウくんのイジワルー。そんなに仲の良い、男の子なんていないもんっ! ふんっ」 リリは、ユウの胸に顔を埋めたまま、恨めしそうにくぐもった声を上げた。その拗ねた様子は、ユウに抱きつきながらも、可愛らしくふてくされているように見えた。 リリとユウのやり取りを聞いていたカイは、驚きを隠せずに首を傾げた。「へぇ……リリが、変だぞ……完全に新人を意識してる感じじゃんかーっていうか、リリが男の人の腕に抱きついてるの初めて見たぞ。すげーな……新人君は」 カイは、リリが他の男性に抱きついているという、かつて見たことのない光景に、純粋な感嘆の声を上げた。 その言葉でユウが反応して、カイに視線を向けた。「パーティの仲間って、『バルキリー』の……おぉ!先輩か……」 ユウは、リリの腕から離れ、初めて顔を合わせるカイに挨拶をした。「えっと、俺はユウです……」「えーっと……俺はカイルで、多分一番年下で武器は弓矢で中、長距離攻撃が得意で近接戦闘だと無力なんでよろしくなーユウ兄!」 カイは、ユウが『バルキリー』の新メンバーだと理解すると、すぐに笑顔を見せ、親しみを込めて「ユウ兄」と呼んだ。その物腰は軽やかで、彼がパーティの中でムードメーカー的な存在であること伺わせた。「へぇ……弓矢かー俺は才能ないんだよなぁ。羨ましいや」 ユウは、素直にカイの持つ弓術の才能を褒めた。自身が遠距
「Aランクの『バルキリー』のリリア様では……!?」 店主の口から、驚愕と畏敬の念が入り混じった声が漏れた。リリアという名、そしてAランクという事実に、彼の冷ややかな態度は一瞬で崩れ去った。「うん、うん、そうだよっ☆」 リリは、店主の驚愕に満ちた表情を見て、得意げに胸を張った。「『バルキリー』のパーティの新メンバーなんだぁー! ちゃんと覚えてねっ」 リリは、そう言ってユウの腕にさらに抱きつき、ユウを庇護下に置いていることを誇示するように微笑んだ。 しかし、店主はリリの言っていることが全く理解できなかった。(……は? Aランクのパーティが、新人で低級の冒険者をパーティへ迎え入れるのか!?) 店主の頭の中は、冒険者としての常識に反する事態で混乱していた。(明らかに足手まといで邪魔だろ。低級の冒険者なんて……いない方が、守る労力が減って効率が良いだろ……。荷物持ちとして……か? だったらパーティとしてではなく、サポーターを雇えばいいだけの話だろ。安く済むし、サポーターとしての経験のあるベテランもいるだろうに……) 店主は、Aランクパーティの行動原理に全く合致しないリリの言葉を、信じることができなかった。彼の思考は、冒険者としての効率と常識に縛られていた。 店主は、リリの言葉が冒険者としての常識からかけ離れていることに戸惑いはしたが、それ以上、詮索はしなかった。理解できなくても、最上級の冒険者である『バルキリー』のリーダーであるリリアに嫌われでもしたら、冒険者相手に商売をしている武器屋としては死活問題になってくるからだ。 当然、文句も意見もできなかった。彼女が必要と言えば、その剣を差し出すしかなかった。別に損をする訳でもないのだから。「そ、そうだったのですか……それは、失礼なことを言ってしまいましたな」 店主は、態度を一変させ、それまでの冷ややかな表情を消し
「えっとね、武器って……お金がないからって、ケチって安いもので考える人が多いけど。でも、武器で戦って魔物を討伐をするんだよ」 リリは、金貨二枚という値札を見て戸惑うユウの心を見透かしたように、真剣な表情で語り始めた。彼女は、冒険者として戦場に立つことの厳しさを知っていた。「安く済ませて、中古とか品質や弱い素材を使ってる武器で戦闘中に武器が折れたら、ケチっただけで実力があるのにも関わらずに命落とすこともあるんだよ……豪華な飾りとか付いて高い物は必要ないけどねぇ」 リリは、ユウの命を守るためだという強い思いを込めて、そう諭した。彼女の言葉は、単に高価なものを勧めているのではなく、武器の品質が命に直結するという、冒険者としての現実を伝えていた。ユウは、リリの真剣な眼差しから、その言葉の重みを感じ取った。 ユウは、リリが選んだ剣から放たれる淡い青白いオーラと、彼女の命を案じる真剣な言葉を聞き、深く頷いた。金貨二枚という金額は重かったが、リリの言う通り、武器の品質が命を分けることは明白だった。「わかった。じゃあ、これにするよ」 ユウが購入を決断すると、リリの表情が一気に輝いた。彼女の瞳は、ユウが自分の言葉を信じ、自分の助言を受け入れたという事実で潤んでいた。(ユウくんが、わたしの言葉を信じてくれた!) リリは、ユウから深く信用されていると実感し、胸の中に温かい嬉しさが込み上げてきた。同時に、この剣がユウの命を守る重要な道具となることに、身が引き締まるような責任感を感じていた。「うんっ! ありがと、ユウくん! 絶対に後悔させないよっ☆」 リリは、そう言ってユウの腕に抱きつき、満面の笑みを浮かべた。 店の店主は、二人の若いカップルが神聖なる武器屋の店の中で、いちゃいちゃと騒いでいるのが気に食わなかった。店主は、仏頂面で腕を組み、冷ややかな目線で二人を見つめていた。 そんな店主の視線を感じながらも、初めての高額な買い物で緊張をした声で、ユウが声を掛けた。「あの……ちょっと良いですか? あの
ユウは正直、ワイルドボアの数を数えたことなどなかった。彼の収納は、時間経過による腐敗がないため、単に非常食としてストックしているような感覚でいた。リーナと出会ってから、徐々に討伐方法を吸収し、リーナに会えなくなってからは、収納ができるようになったこともあり、ほぼ毎日討伐をしては収納を繰り返していた。(この言い方は、なんとなく……正直に言うとリリに、引かれる気がするな……) ユウは、リリの瞳に映る自分の顔を見ながら、内心でそう思った。リリの知っている3頭だけでも驚かれているのに、正直な数を言えば、彼女をドン引きさせてしまうのではないかという不安があった。(10頭? 6頭にしておくか……。実際は、30頭以上あると思うけど) ユウは、自分の収納の正確な量を悟られないように、リリの知っている数に少しだけ上乗せした数を答えることにした。「んー……6頭くらいかな……」 ユウは、リリの目を見ながら、控えめな数字を口にした。「ふうん……もっとあるんじゃないのかなぁ……? あの調子で討伐していたらさぁ!?」 リリは、ユウの腕に抱きつきながら、信じていないというようにジト目で見つめてきた。その視線に、ユウはたじろいだ。「ま、まあ……う、うん。そ、そうだよね……多分、15頭くらいかな」 ユウは、さらに数字を上乗せし、正直なところから遠ざけようとした。「や、やっぱりぃ……ふっふーん♪ だよね、だよねー」 リリは、ユウの正直さに満足したように、得意げに鼻を鳴らし、ユウの腕に顔を擦り付けた。「だよね、だよね~! やっぱりぃーわたしのユウくんは、すごぉーい♪」 リリは、誇らしげにユウの腕に抱きつきながら、目を輝かせた。「簡単にユウくんは討伐してるけど。実は、結構ね&hellip
ユウとリリが町へ着くと、二人は冒険に備えて、パーティの活動資金で食材の買い出しを始めた。 リリは、カゴいっぱいの野菜や肉、保存食をユウの前に差し出す。「これ、お願いユウくん!」「はいよ」 ユウがそれらを手に取り、彼の特別な収納へと次々に仕舞い込んでいく。ユウの収納は、リリや他のパーティメンバーが持つ空間拡張された収納とは異なり、容量や重さを一切気にせずに収納ができる。リリたちの収納は容量に限りがあり、日用品や防具、武器やテント、着替えなども収納しているため、一度に大量の食材を買い揃えるのは難しかった。 しかし、ユウの様子を見て、リリは改めてその能力の凄さを実感していた。 数日の間、ユウと行動を共にしていたリリは、ユウがワイルドボアのような大型の獣を討伐した際も、容量を気にせずに何頭もの獣を収納し、他にも食料品に衣類やら、次々と大量のアイテムを収納していることに気付いていた。リリは、自分の収納の容量を遥かに超えるその収納能力を、横目でチラリと見ていた。「ユウくん、他の食料品も収納をお願いしても良いかなぁ?わたしの収納……容量が厳しくて……」 リリは、買い物かごに山積みになったパンや調味料を指さし、少し申し訳なさそうにユウに頼んだ。「うん。問題ないよ!まだまだ余裕はあると思うから収納は、任せて」 ユウは笑顔でそう答え、リリが差し出す大量の食料品を次々と収納していった。その手際の良い作業に、リリは改めてユウの収納能力の優秀さを感じていた。「えっと……獣の肉がいっぱい討伐をしてたけど……一頭は、パーティのみんなで食べる用にしちゃっても良いかな?他は売る感じだよね?」 リリは、ユウの収納に入っている大量の獣の肉を思い出し、尋ねた。(獣の肉は売れるんだ? 自分で食べるように収納をしていたけど……) ユウは、初めて冒険者として本格的に活動するため、獣の肉が換金アイテムになるという認識が薄かった。しかし、リリの言葉で